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yuuの一人芝居

yuuの一人芝居

小説 冬の空 2 


 瀬戸大橋の全貌です 借り物です


この小説は 海の華の続編である 冬の華の続編である 春の華の続編である 夏の華の続編である
秋の華
の続編である 冬の路の続編である 春の路の続編である 夏の路の続編である 秋の路の続編である冬の空1の続編である
「冬の空2」は彷徨する省三の人生譚である。
この作品は省三40歳からの軌道です・・・。ご興味が御座いましたら華シリーズもお読み頂けましたらうれしゅう御座います・・・お幸せに・・・。

  冬の空  どんよりと覆う空は 心を閉ざすのか・・・。

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 冬の空 2

3

殺陣の練習が始まった。刀を腰に差して歩く稽古が始まった。省三の子供時代はチャンバラごっこという遊びがあったが、今はないのでそれを教えた。あの頃子供たちはみんな東映の時代劇をこぞって見に行っていた。見様見真似で刀の扱いは馴れていたのだった。が、今の子は時代劇を見ないから握り方もわからなかった。練習に走ることを取り入れている所為か顎を上げることはなく付いて来る事が出来た。脱力が役にたった。脱力を練習しているといざと言う時に怪我をしなくてすむのだった。滑舌、鼻濁が出来て台詞が力強いものになっていた。
「芸文館の舞台は広いぞ・・・。大きく動け」
 省三は叫んでいた。
 一度ここでするのだと舞台を見せなくてはならないと思った。
 通しの稽古が練習日には行われた。
「演出の指示を待つな・・・考えてやれ」
「演出の人形になるな、台本を読んで考えろ」
「声が小さいぞ・・・バックには音楽が流れているぞ」
 稽古の成果は明らかに出ていたが、良く出来たとは言わなかった。

上手源内の書斎。
       小町と静と三太郎、五右衛門、茶子兵衛、お市、ドラゴン、お千がてんでんばらばらの姿勢でいる。
       何か置く事と明かりの処理。
ドラゴン  ゴロゴニヤーン、弱虫泣き虫三太郎、鼠に 負ける三太郎、キァャツフードを食べ過ぎて、腎臓結 石医者が通い、情けないぞい三太郎、二食付きの昼寝 付き、野性と 本能忘れた猫に、喧嘩も出来ず逃げ回 る、泣き虫弱虫三太郎・・・ニヤニヤニヤーン。
三太郎  野良猫くそ猫やくざ猫、弱いもの苛めの困り 猫・・・ニャーオンニヤン。
静  三太郎、たとえどんなに辱めを受けても相手にしてはいけません。我が家の飼猫ははしたない事をいたしてはなりませぬ。
五右衛門  ほっとけばいいのさ構わん事さワワワン。                               
小町  可哀相という同情は蔑みであり、傲慢です。
茶子兵衛  五衛チャンが言う通りほっとけばいいのよニヤーン。
お市  愛が欲しいのょ。一人ぼっちってとても淋しいもの・・・キャキンャ。
お千  ドラゴン君、お相手してあげようか。同じ世間に背を向けて生きている同士なのだからキャキャワン。
静  それにしてもあの人はどこへ行ってしまったのかしら・・・。三太郎も五右衛門も引き連れなくて・・・。
小町  お竜さんと・・・。
       源内とお竜が帰ってくる。
       源内へ近づく、三太郎、五右衛門、茶子兵衛。
静  どちらへ・・・。
小町  お父さま、新聞社から原稿が出来たかと・・・                                
源内  お竜さんと海を見てきたぞい。桂が浜で太平洋を遠望する竜馬の眺める海とこの瀬戸の海は続いておるからして、いや、海を渡った立石孫一郎が何を考えておったのか、いや、竜馬が何を見たのかが知りたくて、打ち寄せる波に尋ねておったぞい。
お竜  竜馬には太平洋に朝が来て、キラキラと跳ね返す黄金の波が、小判に見えたのでしょう。金金金に見えたことでしょう。それだけ金に執着をしていたお人であったとお祖母が申しておられました。
       みんなが歌う「竜馬金の亡者か偉人かなソング」
       土佐の高知の播磨やー橋で 坊さん簪買いいましたあーヨサコーイヨサコーイ。
        土佐のー偉人はー数数おれどーなぁーかーで光るはー竜馬かなーヨサコーイヨサコイー。
       土佐のーいごっそー数々おれえどー世間を騒がすー竜馬かーな ヨサコイヨサコイ。
       土佐ーのー泣き虫数々おれどー飲んでー泣くうのはー竜馬かなーヨサコイヨサコイ。
       竜馬・・・色々言うけれど・・・金好きー女好きー昼寝好き・・・ヨサコイヨサコイ。
       この唄は続く今度書く。この唄はもっと研究して書く。
       作者の勉強不足、研究の余地あり。
          6
       瓦板売りが中央トップ。
瓦板売り  孫一郎は通生院に三日いやした。三輪の案内で小舟を雇い下津井へ。大坂、京への船便の為に長門屋で四日間過ごしやした。飲めもしねえ酒を女に袖にされた後、自棄になったように胃蔵に流し込んでいやした。長門屋吉兵衛が色々と世話を妬いていやしたが、真っ赤な顔をして暮れ泥む穏やかな瀬戸の流れを見ていやした。大坂ヘ着いたのは、年が明けて慶応元年でやした。町々には痩せ衰えて胃臓だけが以上に膨れた子供の姿が哀れを誘いやした。
 物の流れは低いところから高いところへと・・・。幕府は何の策もなく商人の言いなり、正統な政など出来ぬ適わぬ、半身不随の症状を見たように思いやした。孫一郎は商人髷を落として後で束ね、大坂を見て歩きやした。大手を振って歩いているのは新撰組の隊士達と剛毛の薩摩武士・・・。
 蛤御門の変で会津若松藩と薩摩の連合軍と戦って破れた長州は、幕府に楯突くとして、幕府軍は長州征伐を、かたや長州は征伐軍の西下軍を迎え撃つか、撃って出るか議論百出、真っふたつに意見ごうごう、業を煮やした久坂玄瑞は京へ撃って出て散々の体の敗北その責任を取って自決。それでも懲りずにその後長州は京へ攻め込み敗れる禁門の変。それによりて朝敵としての汚名確かなり。それの先年には、イギリス、フランス、オランダ、アメリカの四ヶ國による下関戦争で敗れており、踏んだり蹴ったり困ったりでやした。
 大橋敬之助が、大坂の地を見て回っていた頃のことでやす。新撰組の輩と会ったのは・・・。さあさ、此れからが面白くなるよ・・・。買った買った・・・。その前に・・・。
       お竜と現内の、
お竜  へぇ。竜馬が薩摩の手に掛かって憤死しはってから、京の・・・。
源内  たしか、横須賀の大商人と再婚されて・・・。                                 
お竜  それは嘘で御座いますぇ。
源内  嘘ですかいなや。
お竜  お祖母さまが可哀相、二夫にまみえず、そんな女子ではおへん・・・。それから縁を頼りにこの倉敷に移り慎ましやかに生きてまいりましたぇ。
源内  歴史とはいい加減なものとは言え・・・。して、その頼りの方とは・・・。
       お竜が登場。
お竜  ほんに何と言う星の下に生れてきたのやろ。わては、前世でどんな罪を侵したんやろ。男はんにてんごして泣かしたんやろか。ふらりと、わての前に現われはったお人を忘れられへんようになるやなんて。姿形は大物やったけど、お金儲けしか考えん小さなお人。お金になることやつたら何でも・・・。東に、西にと、世渡り上手・・・。
    もっと大きな夢をよう結ばへんかつたのやろか・・・。
       大坂難波新地。
       新撰組の一団が闊歩している。
       近藤勇、沖田総司等である。
       万太郎。
       そこへ通りかかる孫一郎。
       万太郎と孫一郎の目が逢う。
       万太郎が刀を抜き横にはらった。
       孫一郎が辛うじて避ける。

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近藤勇  万太郎、何を手間取っておる。もう良い。そのようなこわっぱを斬っても刀の錆になるだけだぞ。刀を引け。
沖田  組長の命令ぞ。
万太郎  此奴なかなかの手だれ・・・。
沖田  どうします。
近藤  ほっておけ、傷をおうてもつまらん。
孫一郎  なにを!
       孫一郎が斬り込んだ。
       沖田が軽く躱し、
沖田  あなたもひかれい。今日の処は先を急ぐゆへに見逃してやる。だが、今度あった時には私があなたを斬る。(咳き込んだ)
       新撰組の一団が通り過ぎる。
孫一郎  おのれ・・・みておれ・・・。
       孫一郎が新撰組の一団の背に投げ掛けた声は虚しく響く。そこえ浪人が近寄り、
浪人  あなたも無鉄ぽうだぎゃ。あんな連中を相手に して。命が何ぼーうあってもかなわんぜょ。あんな連中と命のやり取りをするとはきぁー刀は役にたたんきに。
孫一郎  あなたは・・・。
浪人  なあに、新撰組が捜しとるんはこのわしじゃきに。
孫一郎  あなたは・・・。
浪人  名前か、土佐の浪人坂本竜馬と世間では言うとるきに。
孫一郎  土佐の坂本竜馬どの、してなぜに新撰組に・・・。
竜馬  わしには尊皇も佐幕もなかじゃ。今が・・・おっとっと、してあんさーは何者で・・・。
孫一郎  ああ失礼を、ご無礼をいたしました。備中は倉敷村の大橋敬之助と申します。
竜馬  倉敷と言やぁ、下津井屋事件・・・。
孫一郎  その事件のことは・・・。
竜馬  皆しっとるきに。あなたでしたか。
孫一郎  私ではありません。
竜馬  よかよか、そげん事はどちらでもよかとじゃ。                                
孫一郎  坂本さん、あなたは尊皇も佐幕もないといいましたが・・・。
竜馬  今のわしは、あなたと一緒で商人じゃきに、今を逃したら金を儲ける時がのうなるきに。これからは、金じゃ、船じゃ。金のあるもんの天下。例えば、これじゃ、(と言いながらピストルを取り出して)何か分かるかに。
孫一郎  鉄砲でしょう。
竜馬  いや、ピストル。もう、刀の時代ではなか、エゲレス、アメリカではもうとっくに刀は捨てとるきに。わしは、大きな船を買ってオランダ、ポルトガル、アメリカ、どこでもよかに、出掛けて大砲、連発銃、をこうて来て大儲けしょうと考えとるぜょ。東中島屋大橋敬之助、この話に乗らんかに。
孫一郎  なぜに私の名を・・・。
竜馬  あなたが大阪に着いたときから見とった。どのように動くかをな・・・。
孫一郎  私をその商売の仲間にと考えてですか、戦をさせて金儲けを・・・。
竜馬  そげんな目で見なさるな。時代じゃ、その方が戦が早ように終わり、平和な國になるのじゃきに・・・。
孫一郎  あなたはこれからこの國をどのように見られるのです。
竜馬  幕府も長州薩摩も戦に疲れきるじゃろうきに。その時、新しい政府が出来て日本國は変わると思うとるきに。して、フランス、エゲレス、と戦争になるじゃろうき。そのためにもアメリカの武器が欲しい、その武器をわしは貯えときていんぜょ。
孫一郎  そこまで考えておられますか・・・。わたしは・・・。
竜馬  わしが高杉に手紙を書くきにそれを持って・・・。此処や京より安全じゃきに。命あっての物種じゃきに。
    (ピストルを出して)これを持って・・・。なあに、商売の仲間の手付けじゃきに。
       中央トップ落ちる。
          7
          お竜がトップに入り。
お竜  祖母が申すには、竜馬は大橋敬之助を仲間に入れ資金を出させて、アメリカより武器弾薬を買い込んで、今で言う武器商人、幕府にも売る、長州にも買わす、手っ取り早い金儲け、株仲間を増やし資金を集め、亀山社中を創りしこたま儲けましたが、それだけで満足をするような人ではありませんでした。幕府の軍艦奉行勝海舟に取り入り後海援隊を造り、また、薩摩に船を買わせて・・・。なんと、その饒舌の土佐弁は留まるとことを知ら何だと言う事で御座います。
       勝海舟が現われて、
       岡田以蔵がシルエットの中・・・
海舟  親父は御家人、ちいせい頃から喧嘩の仕方は、修め方は嫌というほどたたき込まれやしたょ。大きい喧嘩の手打ちから、夫婦喧嘩の仲裁に入り仲直をさせて、食い扶持を稼ぐまったくの自由人、勝小吉を親父さんに持ち、御家人の気分気紛で生きていやしたょ。親父は剣が立ったものでやしたから、ちいせい頃からやっ刀は仕込まれやしたょ。暇があれば朝から晩まで・・・。
 時世と言うのでやしょうかね、御家人と言やあ、旗本の下、幕府の要職はとてもとても雲の上、何も食わずにこつこつと金を蓄め、同心株を買い同心になれれば出世という世の中。中には御家人株を売って商人に職人にへと・・・。
 なんでもやっておくもんだねぇー。親父について修羅場を掻い繰ぐつていたもんで、糞度胸だけは人の百倍は付いていやしたょ。それに親父に勧められて学問だけは怠らなかったことが、どこでどう間違ったのかとんとん拍子の出世、御家人が軍艦奉行、昔じゃあ考えられねえ事よ。
 なに、どうして坂本竜馬と会ったかと、あっしの存在が鬱と惜しい輩が刺客を送って来のょ。土佐の岡田以蔵があっしの後を付け回り、隙あらばと狙っていやしたょ。以蔵が我が家に斬り込んできたとき、偶然か必然か竜馬が以蔵を押さえ付けたのょ。それから弟子にしろ、子分にしろと喧しいの騒がしいの、こちとら江戸っ子面倒臭い事はとんと苦手、あっしの後に付いてきて軍艦に乗って喜んでいやしたょ。
 「竜馬よ、おめいは何が欲しい」と聞くと「金だ」「どうして金なんだ」と尋ねると
 「大きな船が欲しい」、とぬかす。「どうして船なんだ」と聞くと「貿易をしてえと」「どうして貿易なんだ」と聞くと「金が儲かる。この國を救うのは金だ」と抜け抜けとぬかしよったぜ。
 何となく気に入って、神戸の海軍操練所へ・・・。
 このあっしだって幕府に凝りはねえ、火事と喧嘩は江戸の華と言われていた時代が懐かしい、勝麟太郎として咸臨丸でアメリカへ、そこで見たものは日本は百年遅れているという現実でやしたょ。いま、尊皇だ攘夷だと騒いでいる時ではねえ、そんなていたらくだとこの國は外國の植民地になる。そこに平和や気侭があるのけえーと考えていやしたよ。それくれえなら、自分で出来ることはやらにやーなるめえーと・・・。
       孫一郎が登場して。
孫一郎  新撰組の扱いには腹が立った。それよりなにより京大坂の荒廃により心痛めた。この國を変えなくてはならん。坂本さんに金を・・・。この私は長州へ行って倒幕の為に命を捨てよう。坂本さんの手紙を持ち、作州の立石家へ走りました。立石家は毛利輝元から高五百石の感状と賞与の短刀を貰い受けていたのを行き掛けの駄賃と貰い受け、長州へと走りました。だけど、高杉さんはなにやかやと忙しいお人、周防の石城山にある第二騎兵隊へ。そこには神主の倅、御家人崩れ百姓町人のせがれ、全國の食い詰め浪人、何とも奇妙な連中が「幕府を倒せ!」と叫んでいた。私はここで始めて先祖の名前、立石孫一郎と名乗りました。中には十二三の子供までが、参加していました。幼いそれらの顔を見て、正吉、千之輔のことやお鶴のことが頭の隅を過りました。そして、おけいの・・・。桜井を倒すことはすなわち幕府を倒すこと、そうでのうては倉敷に帰られないのだ、と言聞かせました。そして、この年端も行かぬ騎兵隊士の未来に夢と自由がなければならないと願いました。この戦、長州のものでもなく、國民のものとして、國民の将来が係っているものにしくてはならぬとおもいました。
       倉敷大橋家。
       孫一郎とおけいがいる。
おけい  旦那さま、どうしてやりもしないことをやったと。
孫一郎  言うな、此れも私のいたらなさから出たことだ。真実を白日の元にしなくては倉敷には帰れぬ。正義の為に腐り切った幕府を・・・。
おけい  これから・・・。
孫一郎  身の潔白を・・・。そのために長州へ・・・。
おけい  長州へ・・・ですか。
孫一郎  正吉にはこの東中島屋を、千之輔は立石家へやってくれ、お鶴は良いところへ・・・。後の事は頼んだよ。
おけい  はい。
孫一郎  家の者を哀しませて何が正義の戦いか・・・。これも私の定めやも知れぬ。許してくれよ、おけい。
おけい  旦那さま!・・・その優しさが・・・。
孫一郎  倉敷で過ごした日々が・・・。
おけい  後のことは・・・。十分にお体をご安じなされて・・・。
       おけい泣き崩れる。
       瓦板売りが登場する。
瓦板売り  孫一郎が芸州周防にいた頃、将軍家茂は光明天皇の仲介によりやして、皇女和の宮との婚儀会い調い、一応表面上は平穏を装っていやしたょ。その時は長州だけが悪者、長州は孤立していやしたなぁー。高杉はその間、大砲、連発銃、ケペール銃、金蔵の金がなくなるまで買い付けたとかなかったとか・・・。それを仲介するのが坂本竜馬でやしたよ。
 「なんとでもほざけ、こん世は金じゃきに!」と竜馬の雄叫び。
 薩摩に何門大砲を買わした、長州もそれに対抗するには何門の大砲がいるぜよ。と、また、勝海舟を通うして幕府へと言う風に、商いの仁義などありゃしねえ。オット、大橋敬之助、いや、立石孫一郎のことを・・・。
 周防の石城山で立石孫一郎は洋式訓練を身に付けさせられやした。本営宿舎は式部岩城神社の社坊神護寺にありやしたょ。半年を経て、立石孫一郎は三十四歳、書記兼銃隊長になっていやした。竜馬の手紙が効いたのか、感状、賞与の短刀がものを言ったのか・・・。まあ、年令、学識、剣の腕からすると当たり前ということでやすか・・・。

 青年の上がりは子供たちに比べて遅かった。 

4

          8

       源内の書斎。
       静、小町が出ている。
       何かの小道具と明かりの処理。

静  また、悪い癖が出てしまったのだわ。今頃、江戸時代をうろうろとしているに違いありません。
小町  あの、この前の良寛のように、お父さまは犬の良寛になっているのでしょうか?
静  さあね、原稿用紙の中だけで遊んでいれば害はないけれど、原稿用紙の中に書き込んで物語をあれこれと演じて・・・。ああ、なんで物書きの嫁になったのかしら・・・。
小町  というお母さまも、どこかへお出かけだったのですか。
静  ご心配はなさらずに、お体を十分いとわれて・・・。はっ!
小町  この辺りをうろつかれないほうがいい、今度会ったら・・・。うい!
静  小町さん、あなたはもしや・・・。
小町  と言われる、お母さんこそ・・・。

       三太郎、五右衛門、茶子兵衛が登場。

三太郎  ニヤーーーン、五右衛門兄さんが可笑しいでやすニヤーン。
五右衛門  ワンワン、勝海舟を斬れと武市半平太さんに言われ付け狙ろうていると、坂本竜馬に叱られたぜよ、ワワンワンワン。
茶子兵衛  夢をみとったんじゃろうニヤーン。
静  そうきっと夢・・・。
小町  そうです、お母さま・・・。

          9

       瓦板売りが出てくる。
       中央トツプ。

瓦板売り  第二騎兵隊は総督清水美作、軍監兼参謀林 半七、隊の組織者臼井小助、書記楢崎剛十郎らで組織 されていやしたよ。孫一郎は書記兼銃隊長、それに並 んで長州藩士らが隊長分隊長として名を連ねていやし たょ。第二騎兵隊は山口政庁より南に位置する処から 南騎兵隊とも呼ばれていやした。総勢三百名、芸州口 に陣をひく幕府軍を牽制しながら、眼下に瀬戸の海、 陸海の要塞としての役目をはたしてやしたな。

       下手の明かりのなか。
       岩城神社社坊神護寺の山門。
       立石孫一郎と櫛部坂太郎、引頭兵助。
       櫛部坂太郎は二十歳前、引頭兵助は十五歳、まだ何方も幼さが顔にある。
       孫一郎は山門の階段に腰をかけている。坂太郎と兵助は突立っている。
       三人の前には瀬戸の海が見える。

坂太郎  立石隊長、このままで・・・。ここにいて唯洋式訓練をしていていいのでしょうか。長州は・・・。
孫一郎  大変じゃな。四面楚歌、もう逃げ道はないのう。
坂太郎  それではなんらかの手を打ちましょう。
孫一郎  坂太郎、なんで親御の跡を継がずにここにきた。
坂太郎  それは・・・。
孫一郎  馬関辺りで神主をしておれば・・・。
坂太郎  長州がなくなれば、神主もなにもなくなります。それに・・・。
孫一郎  歳は確か、二十歳、この隊の小隊長、何が身の置き所を代えるかわからんな。
坂太郎  隊長は何を・・・。
孫一郎  私は、人の定めを言っておる。生きるとは・・・。
坂太郎  私は、高杉先生を私慕いたしております。
孫一郎  その高杉さんは動かれぬ。
坂太郎  生、久坂玄瑞殿、高杉晋作殿は・・・。少し早く生まれ過ぎだのであろう。
坂太郎  それは・・・。
孫一郎  坂本竜馬殿がそう言っておられた。時代の流れの中で速く流れる人もおれば、ゆっくりと下る人もおると。
兵助  (ポッリト)月明かりの元、瀬戸の海がここまで潮騒を運んでくれまする。隊長この世とは海の流れか、その潮騒か何方でございましょうか。
坂太郎  引頭兵助、お前は何を・・・。
孫一郎  分からぬ、が、海の流れは何時までも何処までも続いておる。潮騒は一時のもの。
兵助  坂本竜馬さんはそれに例えられたのでしょうか。
孫一郎  さあ、竜馬殿も、この私も一時の潮騒のような気がする。
坂太郎  隊長!この私も、潮騒で生きとお御座います。
兵助  私も御供をさせてください。
孫一郎  坂太郎、兵助、御主等は女子の温もりを知っているのか。
坂太郎  ・・・いいえ。
兵助  ・・・。母の温もりも知りません。
孫一郎  男として、天下國家を論じるもまた道程、だが、一人の女子の温もりを知らずに、また、愛せずに、どうして政の何たるかを論じえようか。先に國ありではなかろう。人、人でのうては道は開かれん。女子の肌を知らん御主等を潮の音として消すわけにはいかん。
坂太郎  それでは・・・。
孫一郎  坂太郎、何をそんなに急いでおる。
坂太郎  この南騎兵隊の指揮をしている藩士達は、何を考えているのでしょうか。この大事を前に、役職者は山を下り、女子の膝枕で酒を食らい・・・。全國から集まった隊士たちが可哀相です。だから・・・。
孫一郎  山に火を点けるか。
坂太郎  はい。ここに集まった者はこの國を憂いて、幕府の政に辟易し、新しい國家政道をと願い、自由平等の世の中の到来をと・・・。そのためには命を捨ててもいいと・・・。
孫一郎  敢えて潮騒になりたいと、そのように損得なしの汚れのない人間がいるとは・・・。そのためにこの國の礎になりたいと・・・。
この國を動かすには何がいる。人か、嫌、金・・・。竜馬殿はその金を集めている。諸外國に遅れること百年、その隔をなくすには金じゃきに。と・・・。この狭い日本に人は二千四五百万人、それだけの食料しか出来なかったから、貧しくなった。何を持って諸外国と渡り合おうというのか。その知恵が幕閣に長州に薩摩にあるのだろうか。
坂太郎  隊長、人はそこまで考えません。まず、走ることでしょう。
孫一郎  走ることか・・・。
坂太郎  はい。そこまで考えていてはなにも・・・。                                 
孫一郎  そうよのう。理屈は後からついてくるか。
坂太郎  理屈を側において走る者がのうては、なにも変りません。
孫一郎  潮騒がのうては海も流れぬということか。
坂太郎  はい。・・・隊長は原田新介と言う者をご存じですか?
孫一郎  良く知らぬが、倉敷にいた頃、親父の元へ金の無心をした男だ。
坂太郎  その原田が、隊長は・・・。
孫一郎  書記の楢崎さんとなにやら・・・。
坂太郎  隊長の悪口を・・・。
孫一郎  ほっておけ!
坂太郎  原田は、下津井屋をやったのは代官で、敬之助に罪を着せ、倉敷の尊皇派を炙り出すために・・・。それに引っ掛かった隊長は馬鹿者と・・・。
孫一郎  そう申したか・・・。
兵助  隊長・・・。
坂太郎  隊長を馬鹿にされては・・・。
孫一郎  迂闊であったのう。その手があったか、代官は私より一枚上を行ったのか。

       孫一郎が立ち上がった。

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          10

       上手の源内の書斎の明かりのなか。
       お竜が出てきて。小道具工夫。

お竜  その件について坂本竜馬はこう申しておりまし た。倉敷村に立石孫一郎というご仁がおるじゃが、ま ったく世間を知らん、ぼんぼんじゃ。かぶらんでええ 罪を被ってからに・・・。あいつを一人前の男にしち ゃらにゃならんきに。今の時世、何が求められている かその判別も叶わん様では男ではなかぜょ。何か、人 がびっく返えるようなことをせにゃー。まさに今がそ の時じゃきに、甘えたれが、その意地を見せんと・・ ・。
 この世間にぁー、それぞれ役割があるけに。人を動かす人、時代を動かす人、國を動かす人、役割半ばで倒 れる人、その屍を越えて行く人、最後に笑う人、最後 に泣く人、何もせん人、見てるだけの人、人とは百人百色・・・。じゃが、人として生れてきたら何かょせにゃーあ、わしは仕掛けるき、あの男をひとかどの 、時代の男にするきに。
  まあ、見ちょれや、立石がこれからどげんな事をしちうか・・・。
  所詮、人間にはふた通りの生き方しかなかじゃきに 、何もかも焼き払い新しゅう造り替えたいと思う奴と 、焼き払わずにそれを上手に繕いながら金の掛からんようにと考える奴と、残るのは後の方じゃき。
  わしも、立石も、何方にも決めかねとる。
  竜馬はそう申しておりましたえ。
  誰かを使い立石様をその行動へと・・・。ほんに罪なお人ですな。

       お竜、静、小町の会談。

静  色々とご苦労がたえなかったのでございましょうね。
お竜  女子は苦労をしてもいいと言う男に嫁すべきじゃと、お祖母さまは申しておりましたそうで。小町  苦労をしてもいいと言う男に・・・。
静  確かに、それは・・・。ですがそれは限度の問題です。
お竜  金という目的の為に、何もかも犠牲にして・・・。竜馬とは・・・。
静  それは、あの頃、金が無かったら日本國は・・・。
小町  竜馬さまは、なりふりかまわずに、諸外国と肩を並べる為にと・・・。
お竜  私がこころ苦しいのは、竜馬のいいところだけが伝宣され、影で泣いたお祖母さまの事が・・・。それに、人の為という名目で何事も解決した狡さを非難しているのです。
静  そう言えば、たしかに、うちの源内は大洞吹きですが、他人の迷惑顧みずに世話をやく・・・。
小町  まるで子供が大きくなったようですわ。
お竜  今頃、何処でどうしておられましょうか。
静  さて・・・十分にお体を・・・はぁ!
小町  まあ、お母さま・・・。今度会った時には私があなたを斬る・・・うい!。
お竜  大橋さま、届く便りは引き潮ばかり・・・ほう!。

       中央トップに。
       孫一郎と竜馬。

竜馬  あんさん、人間とは何か考えたことがあるかのー。
孫一郎  さあー。
竜馬  何かを為すときに、壊す奴と、造る奴がおるき。
孫一郎  なにを・・・。
竜馬  あんさんも、わしも、壊す方かも知れんきに・・・。
孫一郎  私は、その定めに従順にと・・・。
竜馬  あんさんは、強かじのう。わしは逆ろうてばかりおるきに。
孫一郎  潮騒に・・・。
竜馬  聞こえてきてすぐに消えても、また聞こえてくる。その・・・。定めか・・・。
孫一郎  流れの中に消える、そのように生れて来たのかと・・・。
竜馬  やるか、もうそれしかないのかのう。
孫一郎  はい。
竜馬  二人して、造るか。その引き金になるかに。
孫一郎  人生の大事はそれを得ることではなくて、得たものを大事にすることじゃと・・・。
竜馬   まっこと、その通りじゃき。じゃが、命は大事にせいやぁー。

       下手明かりの中。
       井汲唯一が登場。
       立石孫一郎が側に座っている。

井汲  今日の第二回下津井会談には、遠くからの出席 、これほど心強いものはありません。腐った物が一つ でもあれば、みんな腐る。政を司る者が我が身可愛さ で、國民の事を忘れていては國民は堪ったものではな い。我々はここに集い、鎌倉より今に至る武家の政治 を断ち切って、朝廷にと考えて・・・。尊皇攘夷、今 こそその時が来る。
  そん第一の行動として案としては・・・。
  立石孫一郎が部下を引き連れ、南騎兵隊を脱走して 、海をわたり、遺恨の倉敷代官桜井の首を頗ね、大店 から軍用金をせしめる。立石が倉敷を焼き払ったとの 報せが走った時、我々は備中宝福寺にて合流する。高 梁は老中板倉の居城松山城下を焼き払い、そこを根城 にして、将軍家茂の西下を阻止する。時来たれば、長 州軍と東上し幕府軍と対峙する。
  一先ずこの案で幕府に反旗を翻し、その後糾合して 我々も旗揚げをする。
この決議は、ここに集まりし全員の合意にて、この 井汲唯一が宣言をす。

                 幕

 
5

 2幕1場
       「えいじゃないか?」
       全員が歌い踊る。
       中央トップ。
       瓦板売りが登場する。
瓦板売り  さてさて、これからがどのようになります か、御心配の事で御座いましょうな。大谷敬吉として 生まれ、大橋敬之助として一家をなし、それから、南 騎兵隊書記銃 隊長の立石孫一郎への道程を・・・。  倉敷村では、大橋敬之助が下津井屋を焼き払い皆殺 し、その遺恨を晴らすため、何時同じような事件がと 、下津井屋の陰で糸を引いていた大店は戦戦兢兢とし ていやしたょ。時代が時代だけに、村人は護身にヤツ トウを習う輩が多くなりやしたょ。代官所も村人を徴集して警護を強めるというように ・・・。立石は第二回下津井会談を終えて帰ぇり、これから の己れの身の処し方を心に刻み、何時その行動を起こ すかを窺っていやしたょ。
       下手の明かりの中。何か装置を工夫。
       岩城山式部南騎兵隊。書院前。
       楢崎剛十郎、原田新介、櫛部坂太郎、立石孫一郎。
楢崎  これ程事を分けて申しているのが解らんのか。                               
坂太郎  山口政庁に、高杉先生にこの隊の行く道を尋ねに行かせてください。
楢崎  何と言うことを、身分をわきまえろ。
坂太郎  このまま、ここで訓練をしていろというのですか。
楢崎  そうだ。
坂太郎  我々はここを脱走して、将軍西下を阻止してみせます。
楢崎  なにをほざいておる。この山の下、芸州口には長討軍が・・・。
坂太郎  今、事を起こさなくては百年の後に悔いを残します。蛤御門の汚名を潅がなくては他藩の笑い者になりまする。
楢崎  時期が早い・・・。
坂太郎  書記、京大坂で同士や長州藩士がどのような目に合っているかご存じですか。新撰組に付け回されて逃げ惑い切り殺されているのですぞ。
原田  逃げて帰ったのは何処の誰でしたかね。
孫一郎  原田、口が過ぎるぞ。
原田  おおこええ、こええ・・・。
孫一郎  後でお前に聞きたい事がある。
原田  何なりと・・・。
坂太郎  あなたは今は黙っていてください。
原田  わかったよ、わかった。命が惜しいからょ。
坂太郎  さて、どのように見られますか?
楢崎  それは、だが、今はじっと我慢して満を持して一気にと・・・。高杉・・・。
坂太郎  藩の重役と高杉先生の考えは一緒ではなく、ここに至っては我々が行動を起こし事実をつくり・・・
楢崎  高杉さんは・・・。今、重役の方々を説得されている最中、その労を無駄にしてはならん。
孫一郎  楢崎さん、わたしたちが事を起こす原因はあなたがた、藩士の人を見下す姿勢に我慢がならないということもあるのです。ここに集まった隊士たちが可哀相です。
坂太郎  それらの隊士たちは、結論が出るのを今か今かと待って・・・。
楢崎  このわしに目を瞑れというのか。
孫一郎  そうです。
楢崎  隊士を扇動したのは立石か?
孫一郎  先導でなくやむなしです。
楢崎  貴様は私恨の為・・・。
孫一郎  何を馬鹿な、我々は長州の為に此処に集まったのではありませんぞ。この國を変えようと・・・。
楢崎  貴様等は、謀反を起こそうと・・・。皆の者立石を捕らえよ!
孫一郎  隊士たちは、もう書記の言うことは聞きますまい。
坂太郎  書記、見苦しいですよ。(楢崎の前に立ちはだかった)
楢崎  櫛部、そこをどけ!考え直せ!
坂太郎  退きません!見逃してください。
楢崎  なら、このわしを斬って、斬れるものなら斬って・・・。
坂太郎  お許しを・・・。
原田  (坂太郎に)おめえさんがやることはねえょ。此処はあつしが・・・。
       原田が、楢崎を斬った。
孫一郎  原田!
原田  なあにー罪滅ぼしでさぁー・・・。
楢崎  (苦しい息の下から)みなの者、立石の・・・櫛部の口に乗ってはな・ら・ん。
孫一郎  お許しを・・・。
原田  何だか、あんたらの方が面白そうだ。
孫一郎  坂太郎、話は終わった。手筈どおり事を進めよ!
坂太郎  はい。
       坂太郎が皆に大きく号令をかける。
坂太郎「さあー、まいるぞ!」
        みんなの前に出て叫んだ。
        闇の中から「おおーう」 と言う声が岩城山一帯に響く。
              2
              源内の書斎。小道具工夫。
              電話がなっている。電話の処に小さなトップ。
              登場すると広がる。
              三太郎、五右衛門、茶子兵衛、その音に反応して、
三太郎  最近、電話の音が喧しくて、落ち落ち昼寝もかないませんニャーン。
五右衛門  散歩にも連れていってくれんから足腰が弱くなって、運動不足で腹の調子も 悪いワーン。
茶子兵衛  ママさんのヒステリーで、茶碗や湯呑みの数が増えて・・・ニヤーン。
              庭から静、奥から小町が飛ん出てきて、受話器を取ろうとして、睨みっこ。
小町  お母さまどうぞ・・・。
静  いいえ、あなたの方が半歩早かったわ、だから取って・・・。
小町  いいえ、ここは・・・。
静  取りなさい!嫁の分際で姑に楯突こうなんて二十
年早いのです。おほ!
小町  (キョトントシテ)はい。はい、柿本でございますが。
静  何と言うことを・・・。今までかつて今のような言葉を喋った事とてなかったに・ ・・。この私は・・・。
小町  はい。申し訳御座いません。帰りましたら、そのように申しきつくお尻をぶん殴っておきますから。あら!
              小町、ガチャンと受話器を置く。
静  きつくお尻をぶん殴る・・・。なんのことです。
小町  いいえ、売り言葉に買い言葉・・・。「色け新聞」から・・・。
静  なんと言って・・・             
小町  ただ今、不倫が大流行だがその件について異論反論を書くと抗議をなさっていた そうで、それで・・・。
              電話がなる。
              静、小町がじっと見つめる。
              ドラゴンが出てきて、三太郎、五右衛門と言おうととして争う。ドラゴンの勝ちで、
ドラゴン  テレホンがかかってきてますぜ、ニヤン
              三太郎と五右衛門がドラゴンと睨めっこをする。
              そこえ、お竜が入ってきて、
お竜  なにやってんの、電話がなっていやすやおへんか。
              二人の様子を窺って、気配いを感じ、受話器を取る。
 はーい。もしもし、へえ、そうでおます。源内先生はお留守のようですな、へえーええ わかりまへんえ。わてですか、へえ、通りすがりの者ですけど・・・。はあ、「西行物 語」は史実歴史を改竄し、今までの古典文学の研究者を愚弄したと・・・。そんな事、 言われても・・・。わては解りまへんえ。・・・喧しい私は源内ではありまへん。まあ!
              静、小町、びっくりしてお竜を見る。
              三太郎、五右衛門、茶子兵衛。
              ニヤンゴロゴロ、ワワワンワンワン、ニヤンニヤーン。
              3
              中央トツプ。
              瓦板売りが出て。子供が売り捌く。
瓦板売り  まあ、ざっとこんな具合で立石孫一郎以下約百五十名が、大砲三門、ケペー ル銃百数十丁、弾薬を引き、抱え、抱き締め、担ぎ、石城山を後にしやした。前以て手 筈の船に乗り静まりけえった瀬戸の海に漕ぎ出しゃしたょ。
子供  瀬戸の海は三日月の下滑るように渡りやしたょ。
              晋作が出て、下手の明かりの中。
晋作  のう、竜馬、奇策とはこのようなことよ。立石は我武者羅に備中代官所を攻める であろう。山陽道の一つの要その代官所をな。うるさくなりそうな奴は小者のうちに叩 き潰すが一番じゃ。代官桜井は中々の切れ者ゆえ。・・・。それにしても、年端もない 奴じゃが、知恵が回る、神主は祝詞と方便で生きておるからな。・・・。その知恵をわしに付けたのは、貴公、坂本竜馬、御主じゃ。なあ、竜馬・・・ 。
              中央の明かり中。晋作が振り返っても竜馬は居ない。が竜馬の声が返る。
忙しい奴じゃ。竜馬・・・。
竜馬  どうした。
晋作  竜馬、顔を見せいや!
竜馬  この忙しいときに、こんなときに、わしはこの様な手もあると言うただけじゃきにな。
晋作  面白かろう、この日本をちいと動かして、金を儲けるんじゃけえ。
竜馬  何もかも壊せ、潰してしまえ。そうすりゃあ、わしの金が物を言うきに。
晋作  壊すことは薩摩に任せ、竜馬、せっせと西郷に大砲を売り込めや。なにものうな た後、復興に長州があたる、それまでにしっかりと金を儲けとけょ。借りに行くけえ。                         
竜馬  晋作、女子の腹の上で死ぬなょ。ろうがいは女子が一番よかなかぜよ。
晋作  御主も、小判で腹を冷やすなゃ。高杉が天下を取ったら、貴族にしたて大蔵大将 しちゃるけえな。
竜馬  見ちょれ、大きな夢を。じゃけんど、生きちょらにぁーなにもつかめんぜょ。
              中央にトップ。その中に中岡慎太郎と竜馬。
中岡  竜馬、何をがたがた言うとうぜよ。はよう勤皇に入っとかにゃーどっちつかずで はおんしの命が危ないぜょ。今、わしぁー土佐を脱藩して長州に世話になっとうぜょ。 竜馬、長州と薩摩が一つにならにゃー幕府は倒せんき、おんしの力をかせいやぁー。
竜馬の声  そげん事には用がなかぜょ。長州が、薩摩がどうなろうが構わんきに。
中岡  もっと眼を高こうしてして世の中を眺めいや。どんどん変わりょうるきに。
竜馬の声  慎太郎、おめいこそ今が働きどきぜょ。走り回れ、飛び跳ねぇや、長州でも 薩摩でも構わんきに、名を揚げとけよ。何も残さんで無だ死にせん事じゃ。
中岡  わしゃー、土佐に帰り陸援隊を造ろうと考えとるきに・・・。
竜馬の声  わしの海援隊に対抗しょうと言うじゃかか?
中岡  何とでもほざけ、まあ、体には気配りをせいや。月のねえ夜には外を歩くなや。           
竜馬の声  おめえも、美味しい話には乗るなや、高杉晋作も西郷隆盛も中々喰えん奴じゃきに。 泣かされてわしに助けてくれと言うなや。
中岡  そりぁー、そつくりおんしに返すきにー。
竜馬の声  まあ、せいぜい長生きせいやー。
中岡  まあ、なんでんよか励めやー。
竜馬の声  おめえとは何時か何処かで逢うような気がするぜょ
              瓦板売りと高杉が入れ替わる。子供連れ。
瓦板売り  孫一郎率いる元騎兵隊は十数艚の小舟に乗って、穏やかな瀬戸の海を滑るよ うに渡り、港、港、で戦の支度の小物をしたてやして、成羽藩の港、連島角浜へ第一陣 が着きやしたのは四月九日、たつぷりとお陽さんを残した頃でやした。一辺に上陸する とてえ変な事になりやすから、ヤットコ、江長と時と処を替えやしたょ。
子供  サアサ、これからどうなるか・・・。
              上手の明かりの中。背景を工夫。
              孫一郎と原田と兵助。大川小助と騎兵隊士数名。
孫一郎  原田、あんたなら、誰も怪しむまい。晒しをしこたま調達して貰いたい。それ に、皆の者に食事を、そして、荷駄を牽く人夫を・・・。
原田  味方の印の鉢巻きにですかい。それに・・・。かしこまった。
孫一郎  御家人崩れが、幕府の手の代官襲撃に手を貸す、そんな世の中になったのかい 。暴徒と化してなお・・・。
原田  そう言うあなただって・・・。自分の生きる道を・・・。
孫一郎  下津井屋をやったのは代官だと、それは本当か・・・。
原田  もう済んだことでさぁー。この戦はあなたの遺恨であっちゃあなるめえから・・ ・。何だかんだと言つてもここまで来たってことでさぁー。もう後には引けねえー・・ ・。が・・・。
孫一郎  馬鹿が壊して、利口が造るということか?それにしても、原田の生き方は、御 家人が・・・。
原田  それも言うなら、元天誅組と・・・。まあ、時世でさあー。勝つたが大将、立石 さんよ、人間てぇなぁいざとなりぁ当てに出来やせんぜ。
孫一郎  そうよのう。だがのう、もう動きだしておる。元に戻せぬならば前に進むしか あるまい。
原田  あっしなら、もう廃めたーで、はいおさらばょと穴を捲くって逃げまさあー。
孫一郎  その手もあるが・・・。この私には出来ん。商人上がりゆえに、商人、たかが 商人とその謗りの方が・・・。
原田  分かりやす。
兵助  隊長!
孫一郎  年端もないこの者どもを、陽の当たる場所へ出してやりたい。
原田  この戦、何の為に・・・。立石さんよ、無駄な事かも知れねえよ。
孫一郎  無駄と分かっていても男としてやらねば為らぬ時がある。
              坂太郎が出てきて。
坂太郎  隊長、みんなやる気です。この勢いで一機に、倉敷代官所に攻め込みましょう 。そして、松山へ・・・。
小助  隊長、やりましょう。
孫一郎  皆を少し休ませろ。坂太郎、ほんにこの戦、高杉さんは喜んでくれるであろう か。して、下津井会談に出た者は糾合してくれるだろうか?
坂太郎  何を今更、百五十名の隊士たちの為にも、今迷っておられる時ではありません 。生きる場所、死に場所を与えてやらねば、もう帰るところはないのですから。
小助  そうです。
兵助  隊長・・・。
孫一郎  よし、前へ。潮騒になろう。みなの者に伝えよ、早暁に襲撃をする。と。
坂太郎  ハッ!
小助  ハッ!
原田  風がすっかりみどりに変わりやしたよ。もうすぐにくそ暑い夏が・・・。
坂太郎  あなたは何が・・・。
原田  いや、なんでも・・・。じぁ、ひと働きをしてくるか。
              中央の明かりの中。
              竜馬とお竜が出てきて。
竜馬  立石もやるもんぜよ。高杉が泣いて喜ぶか、馬鹿がとその短慮を嘆くか・・・。 どちらにしても・・・。
お竜  あなたは、何方でもええのですやろ。お人が死んだ分だけ儲かるのやよって・・ ・。
竜馬  時代が変わるときにゃー人は死ぬき。つまらん世のなかじゃきに、はよう代えに ゃあー。日本の中で戦争をしとると、日本の國がのうなるきに、虎視眈眈と外國がゴー ルドカンパニーを狙ようるきに。
お竜  アメリカ、エゲレス、フランス、ホルトガル、オランダ、オロシャがですか、そ のためには、はように一つに國を固めてと・・・。
竜馬  立石もその礎じゃき。そのぶん、このわしが・・・。
お竜  そう言うあんさんも礎にと・・・。
竜馬  ふふふふ。今に見ちょれ、このわしがこの國を洗濯しちゃるきに。
              下手のトップに。
              高杉晋作と清水美作が。
晋作  こん忙しいときに、ややこしい事をやつてくれたのう。
清水  追っ手を出したが、船脚がはようて・・・。
晋作  仕方がなかろうのう。
清水  将軍家茂が大坂城で長伐の指揮を執り、諸藩に号令を懸けこの際一気にわが藩を 葬りたいと・・・。
晋作  東に幕府軍を、海に諸外國の軍艦の群れ、まさに・・・。袋の中のなんとかじゃ のう。
清水  それにしても、何と言う事だ。己れの私恨の為に・・・。
晋作  だが、これで少しは時を稼げるかもしれんと思うと・・・。
清水  じゃが、火に油をということにもなりかねん。
晋作  長州を脱藩してと、ここは言い張って・・・。
清水  見捨てるか?
晋作  まあ、それしかありますまいな。
清水  それとも、脱藩者として、暴徒として・・・。
晋作  やむなしか・・・。
清水  万一、帰りましたら・・・。
晋作  川・・・。
清水  かわ?

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この小説は 「海の華」の続編である 「冬の華」の続編である 「春の華」の続編である 「夏の華」の続編である「秋の華」の続編である 「冬の路」の続編である 「春の路」の続編である 「夏の路」の続編である 「秋の路」の続編である「冬の空」は彷徨する省三の人生譚である。「冬の空」の続きである。             


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